ヤクザはなぜ指をつめるのか

ヤクザを象徴するものとして、イレズミとエンコ詰めがある。
刺青についてはタトゥーと言い換えられ、芸能人や若い人を中心に一般的になりつつある。なかでもヤクザが一般人と明らかに一線を画すのが、手の指を切り落とすという行為である。ではなぜヤクザは指を切り落とすのだろうか?

指を切り落とす風習や起源についての言われなどは諸説あるが、ここでは現役ヤクザが指を切り落とす直接的な理由や意味について考えたい。

世間一般によく誤解されるのが、小指の先がないヤクザは、何かヘマをやらかして処罰を受けたものだから、ヤクザとして結局はチンピラだという見方がある。この見方は正しくない。
組の金を使い込んだとか、兄貴分の女に手を出したとか、そういうケースもゼロではないが、そういう者はその前に逃げてしまい自らケジメをつける事はしない。少なくとも指を落としている者は、ヤクザ渡世に前向きな者が多い。落とす事でそうなるのか、そうだから落とす事になるのかは分らない。いろんな場面で言い訳したり、逃げたりする事を嫌う者が多い。

一番多いのは金とトラブルだ。この二つの理由で、指を落とす理由の8割、9割は行くんじゃないかと思う。

まず金について、ヤクザがよくやるシノギの一つにノミ屋がある。酒の飲み屋ではなく、公営ギャンブルの競艇や競馬などを、主催者の窓口に通さず独自に受けて配当するノミ行為をシノギにする事である。堅気の客もいるが、同業者であるヤクザも通してくる。同じように自身が客として他のヤクザが運営するノミ屋に通す事もある。通常電話で注文をやり取りし、後日決済する。当てたり抜けたり決済が上手くいっている時は問題ないが、支払いの段になって負け金が払えなかったり、配当金を付けられなかったり、どちらかが待ってくれという事になると、揉める。

自分が受ける立場で、注文を通してくれているのが親分が懇意にする兄弟分だったりする場合、金が用意出来ず、配当を付けられないような事になると面倒な事になる。この場合配当を待ってもらうよう交渉する選択肢がない訳ではない。一般社会でもよくある事で、まずは誠意をみせて支払いが遅れることを相手に詫び、事情を説明する。しかしここが一般の世界とヤクザの世界が違うところである。

スパッと指を切り落として相手に差し出すのである。自分の体を傷付けることで謝罪の意思表示をし、これでなかった事にして下さいと詫びる訳である。もちろん相手の出方を様子見し支払いの引き延ばしを工作する者もいる。こういう言い訳を腹芸と見て潔しとしないタイプの者は、やはりあっさり指を落とす。また当事者とならなくても紹介し、間を取り持った者が指を落とし決着を付けることもある。または相手の貫目から当事者の兄貴分が弟分の責任を取る形で指を落とす事もある。

つまり指を差し出すと言う事は、失敗の果て追い詰められて指を切るのではなく、こうまでしたのだからそれ以上言わんといて下さいよと、グッと身を乗り出す行為なのである。人柄的にも強気で渡世を張る者ほど、あっさり指を切り落とす事が多い。当事者に限らず身内の不始末を詫びる形で、当事者よりも地位が上にある者が指を落とす事もある。

指を落として差し出す行為は一般から見ると非常に残酷な行為に思えるが、ヤクザの世界ではトラブルを発展させないため、むしろ平和的解決方法と言えるのかもしれない。

こういう行為とは別に金銭トラブルの場合、自分が支払い出来ない事を逆手に取り、相手の請求方法に難癖を付け踏み倒しに持ち込んだり、ケンカや抗争を仕掛けるキッカケにする事もあるが、それはまた別の話である。

他にはケンカや争い事、トラブルを理由に指を落とす事もある。
ある人物は自分の舎弟や若衆には、相手の地位や看板に関係なくケンカになった場合は、遠慮せずやってしまえと教えている。一般的には同じ系列下にある他の組織や地位の高い者とのトラブルは、避けたいのが人情である。しかし自分の配下の者には相手の地位に関係なく、とりあえず揉めたら押して来い、そして負けて帰ってくるなと教えているのである。そういう場合、業界の大物と衝突する事もありえる。当然若い者の不始末を詫びなければならないが、そういう事は織り込み済みで、やはり配下の不始末を指を切り落として詫びる。その人物によるとヤクザの世界で名を売るためには、指の一本や二本は必要経費という訳である。

業界の流儀に従い指を落として差し出すが、自分の所にはコントロールの効かない荒れくれ者がいるぞ、相手の看板に引くような事はしないぞと暗に示している。こういうとりあえず相手にぶつかって道を切り開いていくタイプの者は、腰の引けたヤクザと見られる事を嫌い、何本も指を落としながら渡世を張っていく事になる。指は失うが相手が大物でも決して引かないという姿勢は、他のヤクザの印象にも残り、当然その世界で徐々に名前は売れていく。名前が売れ相手が一目置くようになれば、最終的にトラブルは減っていく。ヤクザはある種イメージ戦略も大事である。

ヤクザにとって指がない事は何も恥じる事ではない様に思う。ヤクザを続けていれば、一本や二本飛ばす事があって当然という考えがある。指のあるなしは何らその者の地位と関係はない。山口組のトップに君臨する司忍組長も指は無い。今まで自分が見た中で最高に指が無い者で6本無い者がいた。両手とも親指と人差し指しか残っていない。それでも山口組本家執行部に属す二次団体の最高顧問に就いている。