昭和63年(1988年)、著者は山口組関係の著作の第一人者の溝口敦で、徳間書店より出版された。
作者の溝口氏の徹底した関係者への取材で、詳細な事実が時系列で書かれている。ただし竹中正久にゆかりのあった関係者への取材であり、悪く書かれている部分は当然ない。ヤクザとして評価の高い人物である事は間違いないが、事実として竹中の四代目に反対して約半数の者が、山口組を出て一和会を結成した。これら竹中に反旗を翻した者達がどう見ていたのかという部分に、逆に興味が残る。
内容については、様々なエピソードから竹中正久という人物像がリアルに浮かんでくるし、あらゆる場面での所作においてもトップに立つべき人物だと感じ入る。それでいて普通の一般人が持つ感情も持ち合わせていて、人間味にあふれた部分がある。凶暴性だけでなく、物事の判断や身のこなしにおいても非常に頭のいい人物で、情の厚さもまた格別のものを持っていた事が分かる。文武両道というか、どこか戦国時代の武将に通じるものがあるように思うし、ヤクザでなくとも見習うべき点がとても多い。
プラザ合意から日本はバブル経済に染まっていき、ヤクザ社会も莫大な金を掴むようになる。そういう時代の一歩手前で竹中正久は暗殺された。竹中正久は金に汚れなかった最後の極道といわれている。