平成元年(1989年)、著者は山口組関係の著作の第一人者の溝口敦で、徳間書店より出版された。(武闘派 三代目山口組若頭)
三代目山口組の若頭として、田岡組長の後を継いで服役後四代目組長に就くはずだった山本健一。収監中だった大阪刑務所から、刑の執行停止で民間病院に移され間もなく死去した。山口組が最も他団体との抗争に明け暮れていた時代に、持病を押して指揮を執り続けたことで自らの死期を早めたとも言える。親分である田岡一雄に尽くしぬいた生涯だった。
溝口氏の著作全般に言えることだが、この本もまた細かい時系列描写で書かれている。なかでも児玉誉士夫の私邸に、田岡の使いとして出向いた時のエピソードなどは、まるで武士の所作に近いものを感じる。また健一の妻である秀子についても、本家から金を受け取りに来るよう連絡があった時の所作も、まさに極道の妻である。菅谷政雄との確執や絶縁後の菅谷を狙った松下正夫など読みどころ満載である。
山本健一が率いた山健組においては、当時組員として書かれている者たちは、現在山口組本家においても重要なポストに就いている。例えば現在六代目山口組で若頭補佐を務める四代目山健組々長の井上邦雄も文中に登場するが、本が書かれた当時は、大阪戦争で長期服役中であり、出版された時点で出所まで10年もあった。山本健一を通して昭和時代のヤクザが、何に重きを置き何を拠り所として、どのように生きてきたのかを知る良本である。