分裂騒動から抗争への可能性について

今回一部の団体が脱退離脱したことについて、分裂という言葉が当てはまるかどうかさて置き、今後は全面抗争へ発展する懸念がある。社会情勢や損得勘定に照らして考えてみれば確かに何の得もない。しかし世の中に起こる事件や人間の行動について、すべて理性的な損得の物差しで計る事が出来ないのも事実だ。

これまで山口組は内部抗争厳禁とされ、表面上大きな揉め事はなかったようにされているが、山口組ほど同じ代紋同士で争い続けている組織も他にないのではないだろうか。
特に大阪について言えば、二次団体同士が全面的にぶつかり合う事はないが、三次団体同士や末端同士のイザコザは絶える事がなかった。例えば二代目宅見組系の三次団体と極心連合会系の三次団体では、同じ山口組としての身内意識ははっきり言って・・・ない。
逆に一部の人間が個人同士で親交を結び親しくしている事は実際ある。少年院時代からの仲間であったり、過去に同じ暴走族に所属していたりというように。今ではお互い違う親分から盃をもらっているが、所属する組の者以上に親しい他団体の者がいるというケースも珍しくない。

しかし一般的に上部団体が異なる三次団体同士であれば、同じ山口組といえどもほぼよその組織である。何かでバッティングし話し合いがこじれ感情むき出しの状況に突入すれば、当然トラブルがケンカに発展する。
これまでも○○組の者らが××会の事務所に押しかけて・・・という話は大阪のどこにでもある。当事者も心得たもので、内部抗争厳禁の近年のケンカはやった者勝ちの早い者勝ちである。つまり上部団体に事態を察知されストップがかかるまでが勝負で、ケンカ沙汰は素早く仕掛けたり、やられたら素早く返しに動かなければチャンスを逃しヤクザとして自分達の面子に関わると考えている。死者も出ずマスコミにも出ない下部団体同士の衝突は、これまでいくらでもあった。ただこれらが今まで大きな内部抗争に発展しなかったのは、山口組という同じ代紋の元に統制されてきた効果でもある。

ヤクザ社会の営みとして揉め事は必ず起こる。しかしこれらを上部団体が素早く処理してきた。身内でトラブルを起こさないようにというのが本家からの方針ではあるが、現場の実務としては、起こるものは仕方ないにせよ素早く終わらせるという統制もあった。

今回の離脱団体らに対しては山口組から「処分」が出される。
これは30年前の一和会の時と非常によく似ている。当時もそれぞれの組織の執行部が分裂を理由に全面抗争を指揮した形跡はない。最初に山口組と一和会の間で事件が表沙汰になったのは、和歌山県串本町での殺人だが、これは個人的な金銭がらみだった。その後地方の系列同士の衝突が頻発しエスカレートしていった果てに、山口組の四代目組長竹中正久というトップの暗殺に至った。

つまり上部団体同士に交流がなければ、行くところまで行く可能性を秘めている。逆に何らかの交流があれば、たとえ末端の組員が命を奪い合っても、代紋違いでも大きな抗争には発展しない。実際山口組と稲川会の間で全面衝突はしない。

しかし今回のケースでは末端同士の衝突が簡単にエスカレートする条件が揃っているように思う。現実問題として末端同士の衝突が避けられない以上、大きな事件に発展する事も避けられないだろう。
ヤクザ個人の思考もそれぞれで、出来るだけ抗争を避け効率のいい収益の確保に精を出す者もいるが、組や自分の面子のためあっさりと自分を投げ打つ者もいる。行きがかり上反射的に引き金を引く者もいる。一般社会の合理的価値観だけで今後を予想する事は出来ない。

当事者らも抗争は望んではいないと思う。しかし相当な覚悟で脱退したはずだ。理性的に損得勘定や身の安全を考えれば、脱退せずに山口組に残留していたはずだ。そう考えると脱退自体がなかったはずである。