絶縁 破門 処分についての世間の誤解

この度の山口組本家からの処分は、まずは直参13人という事になっている。
この数については、2008年の時と同じように間を置いて処分が出る可能性がある。

当初は四代目山健組の井上邦雄組長と行動を共にするだろうと見られながら、土壇場で脱退を踏みとどまった直参もいる。今はいいがこういう者については、山口組内でも冷ややかな目で見られて距離を置かれ、時間を掛けて居場所をなくしていく可能性が十分にある。

今回脱退しなかった直参は、もともと井上組長や四代目山健組に関係が近く、山口組内でも山健派と見られていたが、それも井上組長と山健組が山口組にあってこそという事で、井上組長が山健組を率いて山口組を出るとなったら話は別という事なのだろう。このあたりの感情が実に微妙で、気持ちは井上組長個人に同調しつつも、自分が連れている若衆の事を考え、六代目山口組に残る道を選んだのかもしれない。

さて今回の処分を整理してみると以下のようになっている。

絶縁
入江禎 二代目宅見組 大阪市
井上邦雄 四代目山健組 神戸市
寺岡修 侠友会 淡路市
正木年男 正木組 福井県
池田孝志 池田組 岡山県

破門
毛利善長 毛利組 大阪府吹田市
岡本久男 二代目松下組 神戸市
剣柾和 二代目黒誠会 大阪市
奥浦清司 奥浦組 東大阪市
高橋久雄 雄成会 京都市
宮下和美 二代目西脇組 神戸市
清崎達也 大志会 熊本市
池田幸治 四代目真鍋組 尼崎市

ネットなどで処分の差についての意味が解説されていて、絶縁は永久追放で復帰の可能性はなく、破門は将来的に復帰の可能性があるという説明がされている。これらは間違ってはいないが、今回のケースに関しては当てはまらない。

絶縁については問答無用の永久追放で、その後のヤクザ活動はおろか絶縁者と交友した者についても許されず、絶縁者と交友する者については処分を出した組への敵対行為とも見なされ、ヤクザ社会における最も重い処分である。この処分には関西所払いというふうに地域からの追放も付け加えられる事が多い。

そして破門は一番適用の幅が広く、混同も多いのではないだろうか。
絶縁に近い意味を持つ破門と、一時的に破門にしておくという復帰前提の破門があるが、その中身の意味合いについては当事者が理解していれば事足りる。
今回の分裂騒動についての破門は、もちろん復帰前提というような甘い意味は一切ない。過去に山口組本家を破門になった直参がその後破門を解かれ復帰したという前例は今のところない。

13人の処分について差があるのは、脱退を主導的な立場で扇動したと判断されたり、本来は六代目山口組の中でも責任の重い立場にあるはずの者という人物については絶縁処分が出され、それらの者を支持し追随したと見られた者は破門となったような感じがある。

ではなぜ破門は復帰の可能性があると一括りに言われるのだろうか。
山口組でも二次団体三次団体と傘下組織へと下ると、処分の使い方が緩やかで他団体との摩擦や揉め事を避ける意味でも潤滑油の役目を果たす事がある。
敵対関係にない組織を相手に若い者が揉め事を起こす。少々こちらにやり過ぎ感があったりする場合。例えば飲み屋で他団体の幹部とばったり出くわし、絡んできた酒癖の悪い相手組織の幹部を痛め付けてしまった。こういう場合相手の貫目も考慮され、相手の顔を立てる意味でも一時的に殴ってしまった若い者を破門にしたりする事がある。そして頃合を見て中立的でそれなりの実力者が、相手側に掛け合い破門者の復帰を打診する。打診された側もその仲介者の顔を立て水に流す。こうして順番に顔を立てあう事で、ヤクザ社会の均衡が保たれている面がある。

しかし一時的であれ、破門される当事者としては自分の経歴に汚点を残すようで不満もある。そういう場合親分の意を汲んだ当事者に近しい兄貴分などが因果を含めて諭す。
「なぁAよ。ちょと間の事やから辛抱しとけやぁ」
「辛抱て何でんねん、ワシ破門でっか?」
「ちょっとの間ぁだけや」
「なんでワシ破門にならなあきまへんねん。ケンか売ってきたんは向こうの方でんがな。わしヤクザしてまんねん。売られたケンカは買いまんがな」
「そらそうや、アレはちょっと酒癖も悪いしょうもないやっちゃ。せやけどあんなんでも一応○○会のカシラ補佐や。今回の件でウチにも性根のあるヤツがおるっちゅう事、向こうもよう分ったやろ」
「それなら生きて帰らせたんがワシの下手打ちや。情け掛けたんが間違うとった。今から行ってキッチリ殺ってきますわ」
「アホな事言うな、あの程度の男殺ってもうたら、オマエの値打ちが下がるやないか。今××のオジキが向こうのカシラと会うてええ話にしてくれとる。オジキもお前が間違うた事してへんのはよう分ってくれとる。オヤジも口には出されへんけど腹ではようやった思うとる。あとはお前の腹や」
「そうでっか自分のした事で迷惑掛けてるんならワシ指詰めますわ」
「そこまでせんでもええんや。もともとケンカ売ってきたんは向こうなんや。お前はそれを買うただけや。何も間違うた事してへん。とりあえずちょっと間旅行にでも行ってゆっくりしてこいや。連絡だけは取れるようにしとけよ」

こういうケースは相手に対して顔を立てる便宜上の処分であって、組内においては何ら処分的な意味合いはない。もちろんトラブルに対しては内容が考慮される。他団体の人間の金銭を持ち逃げしたりなど、その後組に置いてもロクな事がないと判断されれば、本人が望んでも復帰させる事はない。しかしヤクザは個人の持つ戦闘性や闘争心には寛容な部分があり、またそういう人物を手離すのは惜しいという本音もある。

とはいえ行きがかり上のケンカや突発的な争い事は程度によって建前的な処分では済まない事もあり、相手が命を落としてしまったりした場合には当事者の親分や上部団体にも処分が及ぶ。三次団体組員の不始末であれば、当事者の所属する三次団体組長が破門で二次団体組長が謹慎というようなケースになる。